東京高等裁判所 昭和28年(う)751号 判決
被告人 森田千代
〔抄 録〕
論旨第二について。
しかし原判決援用の証拠、殊に昭和二十七年九月三十日附被告人の検察事務官に対する供述調書中「私としては、この軍票は、警察や法令に決められている銀行等へ届出るつもりは全くなく、兵隊が日本金に替えてくれるのをまつていたのであります」との供述記載に徴すると、被告人は遅滞なく原判示米軍票を日本銀行に寄託する意思を持たなかつたこと明白であり、所論証拠を以ては右事実を覆すに足りないから被告人に本件犯罪の故意なしとする所論は到底採用できない。所論法令に所謂「遅滯なく」とは所論寄託までに或る程度の時間的余裕を存するものと解すべきことは所論のとおりであるが、所論米軍票百十弗については被告人が昭和二十七年九月十日から同月十二日にかけて収受したもので、しかも被告人方において家宅搜索を受けた同月十五日にはこれを手渡した米兵がまだ被告人方に宿泊中であつたとしてもこの間右軍票を制規の手続に従い日本銀行に寄託する時間的余裕が全く存しなかつたとは解されない。従つてこれと所見を同じうする原判決には所論の如き事実誤認乃至法令の解釈を誤つた違法はない。論旨は理由がない。
註 本件は量刑不当で破棄。